脳科学

迷える「サラリマン」のスコトーマ

人は自分が認識しているものしか認識できない。認識していないものをスコトーマと言う。

海外からみた日本の「サラリマン文化」は、異常なものとして捉えられているようだ。どのように映像を撮るか、どう編集するかは、まさに制作者が見ている世界と言える。海外メディアの視点を体験してみれば、日本人には見えないものが見えてくるだろう。

上のリンクにあるAFP通信の動画で、最初に出てくる坊主のサラリマンは日本語でインタビューに答えている。それに英語の通訳が入っているが、英語では

“I am happy to pay my taxes.”

と訳されている。これを聞いて爆笑してしまった。映像と合わさっていかにも奴隷という感じを受ける。さらに英語を日本語に翻訳した字幕にも「喜んで税金を払う」と出ているのだ。何度見ても面白い。

ところが、日本語を聞いてみると、坊主のサラリマンはそんなことは言っていない。英語のほうを聞くと能天気な奴隷にしか見えないが、これは訳し間違いか、恣意的に変えられたものだと思われる。

ただ、映像全体を見れば、確かに「悲惨な奴隷、ジャパニーズサラリマン」というAFPの見方はある真実を捉えていると言える。実際そうだし、映像にも説得力がある。”I am happy to pay my taxes.”もしっくりくる。

ここから2つのことが言える。

一つは、この映像に日本人にはわからない日本の姿が捉えられていることだ。海外から見た日本はおかしな国で、その代表のサラリマンはひどい搾取と収奪に耐えながら、兵隊のように働かされている。AFPは、ロイター、APに次ぐ世界的な通信社で、欧米の視点を代表していると言っていい。このことは、日本人の、とくにサラリマンの目からはスコトーマになって見えにくい。

もう一つは、AFPにもスコトーマがあって、自分が見ている世界以外は見えないということだ。坊主のサラリマンのインタビューを誤訳しているのがそれを裏付けている。無意識的にしろ、意識的にしろ、自分たちの見え方に合わせて情報を操作しているのだ。

人は自分が認識したものしか見えない。私たちが真実だと思っているものは、「どこにカメラを向けるか」の問題に過ぎない。

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